えこあくと2012
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合津マリンステーションの活動合津マリンステーションは、上天草市松島町にある沿岸域環境科学教育研究センターの附属施設で、生物資源循環系解析学分野の3名のスタッフ(教授・准教授・技術職員)が常駐しています。本施設では、有明海・八代海をはじめとする沿岸域(海岸と浅海域)の生物多様性の解明と保全、水産資源の管理・増殖、地域の環境教育(臨海実習や観察会の実施)などといった、多様な研究と教育を行っています。 沿岸域は、生物相が豊かで、魚介類など生物生産も高い地域ですが、世界人口の4分の3が生活しているため、さまざまな環境問題が起き、多くの動植物が絶滅の危機に瀕しています。生物多様性とは、「地球上の様々な環境に、様々な生物が暮らしていること」です。日本の沿岸域は、世界最大の生物多様性をもつ海域ですが、環境が悪化している場所が少なくありません。 沿岸域環境科学教育研究センターでは、「文部科学省特別経費 大学の特性を生かした多様な学術研究機能の充実」に採択され、2011年度より最長5年間の時限で、「生物多様性のある八代海沿岸海域環境の俯瞰型再生研究プロジェクト」に取り組んでいます。合津マリンステーションのスタッフは、このプロジェクトにおいて、八代海の干潟・潮下帯の底生生物相と環境の影響を解明する研究を行っていますが、初年度(2011年度)は八代海湾奧部で調査研究を行いました。 八代海湾奧部は、潟土堆積による泥化と干陸化、それに伴う魚介類の減少が問題となっている海域です。特に、不知火干拓ができてからは、環境の劣化が著しいことが指摘されています。ただし、水深が浅く、干満の差が激しいため、船での侵入が難しいのに加えて、泥深いため、徒歩での調査も難しく、研究がほとんど行われてこなかった海域でもあります。 我々は、湾奧部に多くの調査地点(58ヵ所)を設け、小型ボートと潟スキー、あるいは調査船と採泥器による調査を行いました。調査データは現在解析中ですが、八代海湾奧部では、環境の悪化を示す硫化物などの値は高くないものの、生物相が非常に貧弱であることが明らかになりつつあります。 この他、「生きている化石」とも言われるナメクジウオの個体群調査を、1999年より天草市赤崎沖で継続しています。ナメクジウオは、脊索動物門頭索動物亜門に属し、干潟や浅海の砂の中に潜って生活している動物です。房総半島から熊本県にかけて多数の生息地が確認されていますが、各地で環境の悪化とともに個体数が減少しています。我々は、天草での長期生態研究に加えて、本種の減少原因と個体群動態を明らかにするために、2011年度からは、南島原市沖でも調査を開始し、生息状況や生活史、繁殖特性に関する比較調査を行っています。また、本種はヒトを含む脊椎動物の進化を考える上でも重要な生物であるため、我々は多くの研究機関にナメクジウオを提供していますが、数年前からは、初期発生の研究、野外個体群の保護、あるいは実験動物化を目的として、ナメクジウオの人工増殖も行うようになりました。 他にも、モニタリングサイト1000沿岸域調査(干潟)などによる沿岸域の生物相の解明、レッドリスト(絶滅が心配される生物のリスト)の作成、沿岸環境の再生・創成、さらに社会や行政に対して環境保全・改善に関する政策提言を行いました。1.生物多様性保全への取組2011年度は、 八代海再生プロジェクト研究、ナメクジウオの生活史と人工増殖に関する研究、ハマグリの資源管理と養殖技術に関する研究、各種臨海実習などを行いました。八代海湾奧部でのカキ礁調査ナメクジウオ.オス(上)とメス(下).粒状に見えるのが生殖巣(精巣と卵巣)55Kumamoto University第 章05自然共生スタイル|環境配慮

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