えこあくと2013
58/74

合津マリンステーションの活動 沿岸域は、生物相が豊かで、魚介類など生物生産も高い地域ですが、世界人口の4分の3が生活しているため、さまざまな環境問題が起き、多くの動植物が絶滅の危機に瀕しています。生物多様性とは、「地球上の様々な環境に、様々な生物が暮らしていること」です。日本の沿岸域は、世界最大の生物多様性をもつ海域ですが、環境が悪化している場所が少なくありません。 沿岸域環境科学教育研究センターでは、「文部科学省特別経費大学の特性を生かした多様な学術研究機能の充実」に採択され、2011年度より最長5年間の時限で、「生物多様性のある八代海沿岸海域環境の俯瞰型再生研究プロジェクト」に取り組んでいます。合津マリンステーションのスタッフは、このプロジェクトにおいて、八代海の干潟・潮下帯の底生生物相と環境の影響を解明する研究を行っていますが、2年目にあたる2012年度は球磨川河口域で調査研究を行いました。 球磨川河口域には、広大な干潟が広がり、魚類や貝類の漁場として重要な場所です。また、水鳥の渡来地としても有名で、東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワークにも登録されています。さらに、今後、荒瀬ダムの撤去により、環境の変化が予測される場所でもあります。 我々は、球磨川河口に多くの調査地点(101ヵ所)を設け、徒歩、または調査船と採泥器による調査を行いました。調査データは現在解析中ですが、球磨川河口の干潟・浅海域は、場所によって底質が大きく異なり(軟泥~砂質)、それに対応して、生物相も多様であることがわかりました。 この他、「生きている化石」とも言われるナメクジウオの個体群調査を、1999年より天草市赤崎沖で継続しています。ナメクジウオは、脊索動物門頭索動物亜門に属し、干潟や浅海の砂の中に潜って生活している動物です。房総半島から熊本県にかけて多数の生息地が確認されていますが、各地で環境の悪化とともに個体数が減少しています。我々は、天草での長期生態研究に加えて、本種の減少原因と個体群動態を明らかにするために、2011年度からは、南島原市沖でも調査を開始し、生息状況や生活史、繁殖特性に関する比較調査を進めています。また、本種はヒトを含む脊椎動物の進化を考える上でも重要な生物であるため、我々は多くの研究機関にナメクジウオを提供していますが、数年前からは、初期発生の研究、野外個体群の保護、あるいは実験動物化を目的として、ナメクジウオの人工増殖も大学と共同で行っています。 他にも、モニタリングサイト1000沿岸域調査(干潟)などによる沿岸域の生物相の解明、レッドリスト(絶滅が心配される生物のリスト)の作成、沿岸環境の再生・創成、さらに社会や行政に対して環境保全・改善に関する政策提言を行いました。1.生物多様性保全への取組 球磨川河口での調査の様子ナメクジウオ.オス(上)とメス(下).粒状に見えるのが生殖巣(精巣と卵巣)合津マリンステーションは、上天草市松島町にある沿岸域環境科学教育研究センターの附属施設で、生物資源循環系解析学分野の3名のスタッフ(教授・准教授・技術職員)が常駐しています。本施設では、有明海・八代海をはじめとする沿岸域(海岸と浅海域)の生物多様性の解明と保全、水産資源の管理・増殖、地域の環境教育(臨海実習や観察会の実施)などといった、多様な研究と教育を行っています。2012年度は、 八代海再生プロジェクト研究、ナメクジウオの生活史と人工増殖に関する研究、ハマグリの資源管理と養殖技術に関する研究、各種臨海実習 などを行いました。57Kumamoto University第 章05自然共生スタイル|環境配慮

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です