えこあくと2017
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自然共生スタイル024Kumamoto Universityどのような研究内容か教えて下さい私が研究しているのは、「メソ領域科学」という分野です。メソはマクロ(>100㎛)とナノ(1〜10nm)の間の領域を指します。私は、バイオ分析の研究を行っておりまして、メソスケールの物質を標的とした分析も行っております。例えば細胞などがそれに該当します。ところで、「いい環境」とはどのようなものでしょう。みなさんが思い浮かべた「いい環境」とは、人間にとって都合のいい環境ではありませんか?しかし、人間は自然と共生していかなければなりません。そこで私は、貴重な資源であるバイオリソースをそのまま使うのではなく、バイオリソースと同じ特性をもつ物質を人工的に作ることを目指しています。現在、オプジーボなどの抗体医薬品は着実に市場を拡大していっております。しかしながら、これらの開発に莫大な費用を費やしています。また、大腸菌などに遺伝子を導入し、抗体を合成させ、精製しているため、時間がかかる上、費用がさらに膨らみ、患者への負担が非常に大きい状況です。これは、うまく自然と共生しているとは言えません。そこで私は、安価、かつ1日で化学合成から精製までを終えることができ、抗体と同様のはたらきをする物質として核酸に目を付けました。核酸アプタマーは、自身で高次構造を形成することで、抗体と同様に特定の物質に選択的、かつ強固に結合することができます。現在、核酸に対して自在に化学的な修飾が行える段階までテクノロジーは進歩しておりますので、化学修飾による核酸アプタマーへの自在な機能追加も可能です。現在、試験管内分子進化法を用いて世界中で急速に様々な生体中標的分子に対する核酸アプタマーが取得されてきております。私の研究では、EpCAMというタンパク質に特異的に結合するアプタマーを利用しました。このタンパク質自身はナノスケールの大きさですが、がん細胞の表面というメソスケールの領域にたくさん存在しております。そのため、このアプタマーを一面に修飾した金基板とがん細胞を接触させますとメソスケール領域において多点でアプタマーとEpCAMが結合しますので、特異的かつ強固にがん細胞を捕捉できるということが分かりました。がん細胞の捕捉において現行法では、抗体などが使われることが多いですが、我々の研究によってこのような高価で貴重なバイオリソースを使わなくとも、安価な人工物で代用可能であることを見出しました。将来的には、がんの転移に関与していると言われている血中を循環しているがん細胞の捕捉などへの応用を考えております。研究で楽しかったことは何ですか?やはり、研究が自分の予想通りに行ったときです。成功と失敗では、失敗の方が多いと思います。そんな時に、自分の知識や経験を使ってなぜ失敗したのかを深く考え、戦略を練った上で、再実験を行った際、予想通りの結果が得られると本当に楽しいですね。高校生や大学生に伝えたいメッセージはありますか? 「好きこそものの上手なれ」と言うように、何か好きなこと、得意なことを行う際は、労力を惜しむことなく自分を高めることができるかと思います。しかし、それを好きになる、得意になるまではどの分野においても相応な努力が必要です。人間、頑張るためには高いモチベーションが必要です。まずは理想の将来像を見出し、高いモチベーションを手に入れてください。これを手に入れさえすれば自然と自分のポテンシャルを最大限引き出せるようになると思います。また、世の中は多くの情報が氾濫しており、価値がないどころか皆さんを惑わす情報も多く存在します。そのため、どれが自分にとって本当に必要な情報なのかを見極め、取得していかなければなりません。自分を見つめる時間を確保し、真に必要な情報を取得しつつ、将来像を築き上げていくことが受験勉強と同様にとても大切です。その後は、実現に向けて戦略的に邁進するのみです。皆さんの中から、将来「メソ領域科学」で共に仕事をする人が出てきてくれるのを楽しみにしています。“ 物質と自然”- 熊本大学の「環境配慮」に繋がる研究活動とは? その研究の最前線に立つ熊大の研究者に、高校生がその思いについて聞きました -Interview拠点形成研究Bとは学内公募を通じて選出された、時代を先導する新たな価値を産み出す研究プロジェクトのうち、今後世界トップレベルを目指しうる研究プロジェクトのことです。QQQ右/高田 晶帆 さん左/福岡 亜美 さん中央/同席した庄村 実優 さん、松瀬 友萌 さん(ともに熊本県立   宇土高等学校 2年)

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